2017年3月25日土曜日

鮮度の悪いコーヒーで勝負はできない

某大手コーヒー商社のスペシャルティコーヒーのブランド創出と販促の支援をしていた経験から得たものがたくさんある。そのうちのひとつが、表題の通り、コーヒーは鮮度が命、ということである。

鮮度は何を指すか


コーヒー豆の鮮度というときに、大きく分けて、生豆の状態での鮮度と、焙煎してからの鮮度がある。生豆の鮮度というのはなかなか評価が難しい。銀座の名店「カフェ・ド・ランブル」のように、約70年も前から熟成コーヒーの魅力にとりつかれ、生豆をエイジングさせてから焙煎して供してきた珈琲店もある。では、このようなオールド・コーヒー(ランブルの関口一郎氏は著書『銀座で珈琲50年』のなかで「オルド・コーヒー」と表記)がまずいかと言うと、とんでもない。無論、あてずっぽうでエイジングがうまく行くわけがないのは当然で、この熟成プロセスで失敗すれば、その後どう的確に焙煎してもダメだ。ノウハウを持ったコーヒー店のオールド・コーヒーがいかに旨いか理解するには、百聞するより、カフェ・ド・ランブルのコーヒーを飲むのが近道だ。

焙煎後の鮮度


おいしいコーヒーを商品として提供するには、生豆は、獲れたてであるか熟成されているかよりも、傷んでいない、良好な状態であることが前提となる。問題は、焙煎後どのくらい時間が経過しているか。酸化しているか。焙煎したコーヒーをできるだけ長い時間鮮度保持するために、焙煎後のコーヒー豆から出る炭酸ガスを外に出し、逆に酸素は入らないようにする「バルブ式」というパッケージが採用されていたりする。また、真空パックをしたり、炭酸ガスと酸素を両方とも吸収するコーヒー専用の脱酸素剤を使って鮮度を保持したりする。だから、焙煎後何日で、ということは無条件に設定できないが、炭酸ガスと酸素によって味が劣化していないことが重要だ。

グラインド後の鮮度 


もうひとつ重要な鮮度の軸が、コーヒー豆を挽いて粉にしてからの劣化だ。コーヒーは、挽いてしまうと20分も経たないうちに香りの70%以上が失われる。そうなっては、いくらこだわり技術を以て淹れても、おいしいコーヒーにはならない。商品撮影のために、スタジオの最寄りのコーヒーチェーンに駆け込んで、袋入りで販売しているグラインド済みのコーヒー、つまりコーヒー粉を買ってきて撮影しようとしたことがある。が、ダメだった。ドリップのシーンなのに、お湯をかけても膨らまないのだ。表面がへたっている。このために、良いドリップシーンを撮るために、時間がない中であちこちへ駆けまわり大変苦労してしまった。

コーヒーを看板にしつつ


いくら食品やほかの飲料とともに小売りを行っているといっても、一応「コーヒー」を銘打ちながら、鮮度の落ちたコーヒーを平気で販売している店、企業が少なくない。だが、おうちカフェであっても「最高」を追求しないなら、標準的な珈琲の中でも豆選び、保存、焙煎、パッケージのすべておいて十分すぎるほどの経験とノウハウを持っているUCCのレギュラーコーヒーをスーパーで買う方がいい。適度なこだわりなら、それで十分だ。インスタントコーヒーだって、UCCのこだわり路線の商品は、少なくとも一杯目は唸るほど旨かったりする。そうじゃなく、本当においしいコーヒーにこだわりたい、量販品の上を行きたい人は、やはり、SNSや雑誌や巷の口コミなどあらゆる手段を使って、おいしいコーヒーを探し求める。コーヒーを看板にするなら、あるいは看板の一部に使うなら、商品づくり、鮮度のための回転数のアップに、必死に取り組むべきだろう。

コーヒーは、うんちくだけではおいしくならない。同時に、うんちくなしにスペシャリティ・コーヒーを売るのも難しい。 売る側に専門性が要求される商品だ。コンビニコーヒーの大成功が言われて久しい今も、異業種がコーヒーを上手に売っていると思う場面に遭遇した記憶がない。コーヒーマンは概してあくが強いから、表面的でない異業種連携はなかなか難しいのかもしれない。だが、そのような、煙たがられがちの、気難しく熱いコーヒーマンたちの世界が、私は好きだ。

0 件のコメント:

コメントを投稿